Gallaxy



ジェイドが駆けつけた時、ネフリーはすでに血まみれになって意識を失っていた。
魔物がネフリーにととどめを刺そうと近寄る前にジェイドは進み出る。
魔物がこちらに意識を向けた隙にジェイドはピオニーに向かって叫んだ。

「ピオニー、ネフリーを!」
「わかってる!」

ピオニーはネフリーの元に駆け寄ると、その小さな身体を腕にかかえて木の根元まで避難した。
ジェイドはそれを確認すると、すぐさま詠唱を開始する。
フォンスロットから第二音素を開放し、結合させる。

「狂乱せし地霊の宴よ―――ロックブレイク!」

譜が発動し、敵に襲い掛かる。魔物はそんなに強くはなかったらしく、一瞬で塵となって消えていった。

「ネフリー・・!」
ジェイドはすぐにネフリーの元に駆け寄った。
そして妹の傷が思った以上に深いことを知る。
「駄目だ。血の量が多すぎる!」

―――このままでは、出血多量で・・・

ネフリーの腕からは止め処なく血が溢れ出ている。ピオニーが止血しようとネフリーの腕に服を破った布を巻きつけているが、あまり意味のないように思えた。
「は、早く先生のところへ・・・!」
サフィールが泣きそうな声でそう叫んだ。
「駄目だ!街まで戻ってたんじゃ間に合わない!」
ピオニーが叫び返す。その通りだ。街に戻るまでネフリーの体力はもたないだろう。

「くそっ!僕が第七音素を使えれば・・・!!」
いつも望んでいた力。これほど自分が第七音素譜術士でないことを悔やんだことはない。

―――どうすれば・・・

ジェイドはなんとか妹を助ける方法を考えた。
そして、ふとある考えが浮かんだ。


―――複製を・・・レプリカを作ればいい


が、そんな考えも一瞬で吹き飛んだ。
いきなり近くで譜が発動する気配を感じたからだ。
気配のした方を振り返ると、が譜術を発動させるべく詠唱を開始するのが目に入った。

「ニーベルングの名のもと 彼の者に癒しの光を!―――ヒールストリーム!!」

光が、光の束がネフリーを包み込んだ。
腕の傷がみるみるうちに治っていく。完全に傷がふさがり、最後には何の痕も残っていなかった。



「あんた・・第七音素譜術士だったのか・・・?」
ジェイドは詠唱を終えたに向かって問いかけた。
の方はというと、譜の発動が身体に大きな負荷を与えたのか、肩で息をしている。
「ネ、ネフリーは・・・?」
「もう大丈夫だ。のおかげで傷が完全に治ったぜ!」
ピオニーが叫ぶ。ネフリーは未だ意識を失ってはいるが、顔色もよくなってきている。
じきに目を覚ますだろう。
「よかった・・・」
は安心したのか、その場にひざをついた。
「はは・・・今頃になって腰が抜けちゃったみたい―――」
はそう言いながらなんとか立ち上がろうとするが、足に力が入らないらしい。
ジェイドはゆっくりとの方へ近づく。

「ありがとう」

その言葉は自分でも驚くほど素直にジェイドの口に上った。
は驚いたように、ジェイドを見上げた。まさかジェイドの口から感謝の言葉が出るとは思っていなかったのだろう。
「あんたが・・がいなければ、ネフリーは死んでたかもしれない」
人の死を実感出来ないとはいえ、妹がこの世からいなくなるのは嫌だった。
それにまだレプリカ技術は完成していない。が第七音素譜術士でなければ、取り返しのつかないことになっていた。

ジェイドは無言でにその透き通るように白い手を差し出した。
「立てるか?早くここから移動した方がいい。血のにおいに新しい魔物が来るかもしれない」
今のところ、魔物の気配はしないが、じきに血のにおいに引き寄せられて魔物が押し寄せてくるだろう。
「あ、ありがと・・・」
は遠慮がちに差し出された手をとり、ゆっくりと立ち上がった。
「ピオニーはネフリーを頼む。サフィールは・・・一人で歩け」
「そ、そんなぁ!僕もジェイドと手を・・・」
「嫌だ」
ジェイドはの手を引き、さっさと歩き始めた。
置いていかれてはたまらないとばかりにサフィールも後ろから付いて来る。





は朦朧とした意識の中ジェイドに手を引かれながら、自分の先ほどの力を思い出していた。
自分は確かにワルキューレと呼ばれていた記憶がある。
そして、どこで誰に習ったのかは思い出せなかったが、譜術がどうやったら発動するのかは手に取るようにわかった。
今もう一度やってみろと言われても、出来る自信があった。
頭では何も思い出せないのに、身体ははっきりと覚えている。
不思議な感覚だった。

「ねえ、ジェイド・・・」

は隣を黙々と歩くジェイドに声をかけた。ジェイドは無言で少し身長差のあるを見上げた。

「この前私に聞いたよね。私は一体何者なんだって・・・」

そう聞かれたとき、は何も答えることが出来なかった。自分で自分がわからなかったからだ。その時の気持ちは今でも変わらない。

「今さ、私が一番聞きたいよ・・・。―――私は一体何者なの?」

ジェイドに聞いても答えられないことはわかっていた。けれど、今は誰かに問いかけずにはいられなかった。

「・・・・あんた、詠唱のときに、“ニーベルングの名のもと”って言ったよね?」
「え!?・・ああ!・・うん」
てっきり、僕が知るわけないだろとあっさり切り捨てられると思っていたは返事に戸惑ってしまった。
「ニーベルングって言葉、どこかで聞いたことがある。本で読んだのかもしれない」

「え・・・?そんな・・・」
そんなはずはない。このニーベルングの指環は、の元いた世界にあったものだ。
この世界のものでは決してありえない。けれど、この指環が全ての鍵を握っていることも確かではある。

「一度調べてみる価値はあるかもね。あんたの正体に関わることかもしれないし―――」

「―――私と一緒に調べてくれるの?」

は疑問に思ったことをつい口に滑らせてしまった。今まで散々毛嫌いされていただけに、ジェイドの態度の変化に少し驚いていた。

「な・・・!あ、あんたのためじゃないからな!僕が気になるから調べるだけで・・・勘違いするなよ!?」

ジェイドは一瞬固まったが、すぐに慌てて言い返した。
いつもが大人びているだけに、そんな姿が年相応に見えてはつい笑ってしまった。






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