Gallaxy



も一緒にロニール雪山に行こうぜ」
ある日午前の授業が終わった後、ピオニーがのところにやってきてそう言った。
どうやら、ジェイドやサフィールと一緒に皆で雪山に遊びに行くことになったらしい。
そこで、もどうかと誘いに来たのだった。
今日も本を読んで過ごしていたは、正直外に出て身体を動かしたい気持ちもあったのだが、自分が行くとジェイドが嫌がることを知っていたので、返事をためらっていた。
すると―――
「大丈夫だって!ジェイドの了承はとってあるしさ!」
の心の内を読み取ったらしく、ピオニーはそう付け足した。
それにしてもジェイドが承諾――ありえない、とは思った。
しかし、せっかく街の外に出る機会が出来たのだ。このケテルブルクという街に連れてこられて以来、は一度もこの街の外に出たことがなかった。
だから、はピオニーの誘いにのることにした。


を雪山に誘おうと言い出したのは、ピオニーでもなければサフィールでもない、実はジェイドだった。
もちろん仲良くしたい、とかそういう理由からではなかった。
気に入らないという思いに変わりはないが、それと同時に湧き出てくるという存在への興味も大きかった。
雪山には魔物がたくさんいる。必然的に戦闘は避けられないだろう。の譜術をもう一度見てみたい、とジェイドは考えていた。
そこで、ピオニーを通してを誘ってもらったのだ。
サフィールはおまけだ。
ネフリーも行きたいと言ってきかなかったが、今回は危険なのがわかっていたので連れて行かなかった。ピオニーとサフィールを守るだけでも手一杯だからだ。


そんなこんなで、四人は雪山に向かっていた。


雪山に着くまで幸運にも魔物に出会うことはなかった。
そして、今もまわりに魔物の気配はない。
「それにしても、ネフリーちょっとかわいそうだったね・・」
は先ほどのネフリーの様子を思い出して、ぽつりとつぶやいた。
ネフリーは自分も行きたいとたちが出発する直前までごねていた。
ジェイドが絶対に連れて行かないと言い張ったので、渋々ながらもあきらめてくれはしたが。
「仕方ないだろう?ネフリーはまだ小さいし自分の身を守る手段もない」
ジェイドはいつもの冷たい口調でそう言った。
「そりゃそうなんだろうけどさ」
は不服そうだ。そんなに危険ならなんで来たんだ、と思わないでもなかった。
この世界に人を襲う魔物がいるということは本で読んで知っていたが、未だ遭遇したことのないには魔物なんて言われても全く現実感がない。
「ねえ、それで雪山に行って何するの?」
今日は雪が降っていないとはいえ、寒いのに変わりはない。
こんな寒さの中、わざわざ雪山までやって来てピクニックをするわけでもあるまい。
「たまにはこうやって外の世界を見てみるのもいいんじゃねぇの?それに、ホラ!そりもちゃんと持ってきてるし」
そう言ってピオニーはサフィールの方を指差した。
確かにサフィールはそりを2つ引きずっている。かなりしんどそうだ。
「な、何で僕ばっかり・・!」
サフィールはぜいぜい言いながら、たちの少し後を必死に歩いている。
なんとなくこの三人の関係が見えてきた気がして、は苦笑した。
「ほら、サフィール。片方持ってあげるから――――」

「ん?」

何か悲鳴のような声が聞こえた気がしては耳を澄ました。
「どうしたんだ?」
急に立ち止まってきょろきょろし出したにピオニーは声をかけた。
「いや、何か叫び声が聞こえた気が・・・」
「気のせいだろ?」
おかしいな、と思ってが歩き出そうとすると―――

「きゃーーーーーーーーー!!」

少女の叫び声が山全体にこだまする。
聞き覚えのある声だった。
「この声は!?」
「ネフリー!」
ジェイドは真っ先に駆け出した。続いてピオニーも駆け出す。
「ま、魔物に襲われたんだ!!」
サフィールは震えながらそう叫んだ。はその言葉の意味を理解するのに数秒を要した。
―――魔物!?
は震えるサフィールの手をつかむと、慌ててジェイドたちの後を追いかけた。

雪に足がとられて走りにくいはずなのに、ジェイドとピオニーの足は速い。
ネフリーの悲鳴はそう遠くはなかったはずだ。はサフィールを半ば引きずりながらも懸命に走り続けた。
数百メートルほど走ったところで、ジェイドが魔物に向けて譜術を発動している姿が目に入った。
を殺そうとした時とは違うものだった。
魔物はジェイドの譜術で吹っ飛ばされ、塵のように消え去った。
はネフリーの姿を探した。
「ネフリー!」
ネフリーは木の下で、ピオニーに抱えられ横たわっていた。
は急いで二人の下に駆け寄る。

「ネフリー!しっかりしろ!!」
ピオニーの悲壮な声が辺りに響きわたる。ネフリーの右腕は無残にも引き裂かれ、血で真っ赤に染まっていた。破れたコートの隙間から、血にまみれた二の腕が見えてる。
は息を呑んだ。

―――このままじゃネフリーが・・!

戦闘を終えたジェイドもこちらに駆け寄ってくる。
「ネフリー・・!」
いつも冷静なジェイドもさすがに動揺を隠せないようだ。
「駄目だ。血の量が多すぎる!」
ネフリーの右腕からは未だに血が次々と流れ出している。
「は、早く先生のところへ・・!」
サフィールは唇をわななかせながらも、そう叫んだ。
「駄目だ!街まで戻ってたんじゃ間に合わない!」
「くそっ!僕が第七音素を使えれば・・・!!」


はそんな会話を遠くで聞いていた。
すぐ近くにはいるのだが、今は違う声を探していた。

―――ニーベルング・・答えて・・ニーベルング

は必死に頭の中で呼びかける。今この少女を助けるには、ニーベルングの力が必要だと感じていた。

―――ネフリーを助けたいの!お願い、この前みたいに力を貸して!

は祈るように頭の中で叫び続けた。
声はすぐに返ってきた。

―――私は力など貸してはいない。

―――お前は知っているのだ。

―――思い出すだけでいい。

―――ワルキューレよ

ワルキューレ。聞いたことがある。
そう。私はワルキューレなんだ。そう呼ばれていた記憶がある。
前の時と同じように、自分がどうすればいいのかが手に取るようにわかった。
身体の中にあるフォンスロット内の第七音素を開放する。

「ニーベルングの名のもと 彼の者に癒しの光を!―――ヒールストリーム!!」






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