ドリーム小説




目が覚めれば、そこは自分の部屋で、今まで起こっていた不思議な出来事は全て夢だった
―――そんな展開を期待していたのだが、現実はそんなに甘くはないようだ。


はまだ少し重い身体を半分起こして、辺りを見渡した。
ここはどこだろう。自分はどこか知らない家のベッドで寝かされていたようだ。
生きてる、ふとは当たり前のことを実感した。
意識を失う前の状況が鮮明に思い出される。
魔法みたいな能力を使って自分を殺そうとした少年。
その少年の魔法をことごとく粉砕した自分の力。
訳のわからないことが多すぎて、逆に常識というものが曖昧になってきた気がする。
全ての元凶は左手の薬指にある指環――ニーベルングという名の指環にある、ということはなんとなくわかってきた。
あの何度か聞こえた頭に響く不思議な声もこの指環と関係あるのだろうか。


そんなことを悶々と考えていると、部屋の扉が開かれた。
「あら、目が覚めたのね」
声のした方に目を向けると、扉から若い女性が入ってきた。
ゆっくりと近づいてくる。
「具合はどう?」
「あ、あの・・」
はどう返答していいかわからず、口篭ってしまった。
「そんなに緊張しないで。私はあなたに危害を加えたりしないから」
女性の声が優しくの胸に響く。
その声音があまりにも優しかったので、の目から堰が切れたように涙がこぼれだした。
「わ、私、もうど、どうしたらいいのか、ぜ、全然わからなくて・・」
涙が溢れ出てきて、上手くしゃべれない。
そんなの背中を、その女性は優しく撫でてくれた。
は何とか涙をこらえようとする。
「いいのよ、泣きたいときは思いっきり泣きなさい」
涙が次から次へと溢れ出てくる。
背中を撫でてくれる女性の掌の温もりが、今は無性にの心を揺さぶった。



どれくらい泣き続けたのだろうか、涙も枯れ果ては己を取り戻した。
「す、すいません!突然泣き出したりなんかして・・」
19にもなって、それも初対面の人の前で大泣きしたことが、今更になって恥ずかしくなってきた。
「いいのよ、よほどつらいことがあったみたいね・・えーと、お名前を聞いてもよろしかったかしら?」
「あ、すいません。です。って言ったほうがいいのかな・・?」
目の前の女性も、明らかに日本人でないことはわかる。なぜか日本語は通じているみたいだが。
さんね。私はゲルダ・ネビリムよ」
「あの・・私、気がついたらここにいて・・。ここは一体どこなんでしょうか?」
一度、少年にたずねたことと同じなのだが、この人の方がもっとわかりやすく教えてくれる気がする。
「ここは、マルクト帝国の、ケテルブルクという街よ」
少年も同じようなことを言っていた。
「その・・マルクトっていう国は世界地図でいうとどのあたりに位置するのでしょうか?ユーラシア大陸?それともアフリカ大陸とか?」
ネビリムはの言葉に一瞬目を丸くするが、すぐに優しげな顔の戻り、立ち上がった。
「地図を持ってくるわ」
そう言って、ネビリムはベッドと反対側にある棚の中から一枚の地図を取り出した。
「今、あなたのいる場所は・・だいたいこのあたりよ」
はあまりの衝撃に、目を大きく見開いた。

ネビリムが指差したところだけではない。こんな世界地図見たことがない。
日本もアメリカも中国もイギリスも、それどころか、自分の知っている国が1つもない。
ここはいったいどこなのだ?
「私、知りません。私の知っている世界はこんなんじゃないんです・・」
これではまるで、どこか全く違う世界に来てしまったみたいではないか。
ネビリムは困ったように眉根を寄せている。自分でも状況がよくわかっていないのに、全く赤の他人であるネビリムには余計にわからないだろう。
「記憶を失っている・・というわけでもなさそうね。この世界を知らない・・か」
ネビリムは何かを考え込んでいるようだ。
「あの・・」
急に黙り込んでしまったネビリムに不安を感じ、は声をかけた。
「あら、ごめんなさい。・・・そうね、今は情報が少なすぎるわ。深く考えても仕方のないことだし・・。当分はここでゆっくりお休みなさい。私が面倒を見ましょう。これからのことはゆっくり考えればいいわ」

ネビリムがそう言った途端、ガタン、と大きな音を立てて扉が開かれた。
「本気ですか、先生!?」
入ってきたのは、まさにを殺そうとした張本人で―――
は思わず身構える。
「立ち聞きはよくないわ、ジェイド、それにピオニーもね」
そう言われて、もう一人の少年も部屋の中に入ってくる。
「それより、本気なんですか?こんな素性も知れない女の面倒を見るなんて・・。さっきから話を聞いてれば、わけのわからないことばかり!どう考えても怪しいですよ!」
少年はすごい剣幕でそう捲し立てた。
「落ち着きなさい、ジェイド。あなたらしくないわね・・。よほど譜術を防御されたのがショックだったのかしら?」
ジェイドと呼ばれた少年はネビリムの言うことが図星だったらしく、プイとそっぽを向く。
「ごめんなさいね、この子達は私の教え子なの」
「教え子・・?」
「ええ、私、この街で小さいながらも私塾を開いているのよ」
は妙に納得した。ネビリムに安心感を覚えたのは、教師の持つ独特の雰囲気だったのか。

ネビリムは少年二人を軽く紹介してくれた。
自分を殺そうとした少年の名前はジェイド・バルフォア。年齢にそぐわぬ、落ち着いた――というよりは少し冷めた雰囲気を持つ少年だ。血を思わせる深紅の瞳が印象的だった。
そしてもう一人は、ピオニーという名前らしい。こちらの少年はジェイドとは違って、明るい雰囲気だ。明るい金髪に少し焼けた肌はこの雪国にはそぐわないな、とは思った。

ピオニーは笑顔でよろしくな、と言ってくれたが、ジェイドはずっとそっぽを向いたまま、の方を見ようともしなかった。






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