|
「ニーベルングの名のもと 私は拒絶する」 少年のつくり出した風の刃はの発した呪文により一瞬のうちに相殺された。 「何!?」 少年が驚きの声を上げた。 驚いているのは少年だけではなかった。 「何・・今の・・」 は今起こった事態を全く飲み込めずにいた。 少年がやってのけたことも、自分がやってのけたことも。 確かに、今、目の前の少年は、魔法のようなものを使って自分を殺そうとした。 そして、自分は、その魔法を無効化した。 状況的にはこんなかんじなんだろうとは思う。 この世界で、そんなこと通用するはずない。常識的に考えて、魔法なんてありえない。 以前のならそう考えたのだろうが、今は少しばかり事情が違った。 今、自分の目で見たことまで否定してしまえば、一体何を信じればいいのかわからなくなる。 不思議なことが立て続けにに怒ったせいで感覚が麻痺してしまったのだろうか。 ―――これは現実であり、真実でもある。 ふと母親の言葉が頭に浮かんだ。 「お母さんはこのことを言っていたの・・?私は・・一体・・・。どうして私はこんな力を・・・?」 は、だんだんと身体から力が抜けていくのがわかった。 頭がクラクラしてくる。 「あれ・・・?」 立っていることも出来なくなって、は冷たい雪の上にしゃがみこんだ。 身体に全く力が入らない。頭では動かそうと考えているのだが、どうしても身体が言うことを聞いてくれない。 ここで意識を失えばどうなるか、考えるだけでも恐ろしい。 目の前の少年に殺されてしまうか、あるいは放ったらかしにされたとしてもこの寒空の下眠っていれば死んでしまうだろう。 必死に意識を保とうとするが、自分でも限界が近づいてきているのがわかった。 考えることが億劫になる。もうどうにでもなれ、とさえ思えてきた。 限界だった。 「―――ジェイド!」 遠くの方で、目の前の少年のものとは違う少年の声が聞こえた気がしたが、はその姿を確認する前に意識を手放した。 「ピオニー・・。やっと見つけた」 ジェイドは駆け寄ってきた少年――ピオニーに目を向けた。 「この人は?・・・まさかお前殺したんじゃねぇだろうな!?」 「まだ死んでないよ」 ジェイドの言葉には全く感情というものが感じられない。 ピオニーは少し慌てた。 「おいおい、まだって物騒なこというなよ!」 「物騒なのはそこの女だ。僕の譜術を一瞬で相殺した。フォンスロットの大きさが普通じゃないし、それにマルクトもキムラスカも知らないと言った。明らかに怪しいから・・」 「って殺すなよ・・」 ピオニーは半眼になってあきれながらもジェイドの言葉をさえぎった。 ジェイドという男は全くといっていいほど人の生に無頓着だ。 「だからまだ死んでいない。それに僕は殺そうとしたなんて一度も言っていないだろう?」 「じゃあ何で譜術を使ったんだよ?殺すつもりで使ったんじゃねえのか?」 「・・・死んだって別に構わないだろう?ここは街から遠いし、それに不審者だし。もしかしたら盗賊かもしれないだろう」 シレっとした顔で恐ろしいことを言ってのけるジェイドに、ピオニーは思わずため息をついた。 「・・・とりあえず、この人街まで運ぼうぜ。このまま放っておいたら寒さで凍死しちまう」 ピオニーはよっこらせと、気絶している少女の腕に手を伸ばす。 「だから別に構わないだろう?」 「オレが嫌なの!マルクトもキムラスカも知らないのだって、もしかしたら記憶喪失なのかもしれないだろう?最初っから人を疑って見るのはやめろよな!」 「それで、何度も危険な目にあっているのはどこの誰だったかな?」 「う・・・」 痛いところをつかれて、ピオニーはくちごもった。 そう、今日も、誘拐されそうになったピオニーをジェイドは助けに来てくれたのだ。戦闘中にはぐれてしまったのだが。 「と、とりあえずネビリム先生のところに運ぼう!先生なら、この人が本当に怪しい奴なのかわかるかもしれない」 自分で言って、妙案だと思った。 「・・・勝手にすればいい。僕は手伝わないからな」 ジェイドはそう言うなり、先に街のほうへさっさと歩き始めた。 「薄情なやつ・・」 ジェイドが手伝ってくれないなら、自分ひとりで運ぶしかない。 ピオニーは自分よりも大きい少女を背中にかついだ。 「・・・温かい」 少女の温もりが背中から伝わる。 この少女も自分と同じように生きているんだ、と当たり前のことを思う。 「こんなに温かいのに・・」 どうしてあいつはこの温かさを知ろうとしないんだろう。 ピオニーの表情はどこか寂しそうだった。 |