Gallaxy



「それはお兄ちゃんが作ったレプリカなの!」

1日経った今でもネフリーの言葉が頭に焼き付いて離れない。
あの後、ネフリーはひどく落ち込んでしまって、この言葉の意味を問いただすことは出来なかった。

レプリカ―――言葉自体は元いた世界でも聞いたことがある。
複製品、というような意味だったはずだ。
普通に考えれば、複製品などは世の中に溢れ返っているものだ。
別段、ジェイドが人形の複製品を作り出したとしても不思議ではない。
一目見ただけなのであまり鮮明に覚えているわけではないが、完成度は高かったように思う。
その事実だけを見れば、ジェイドには人形作りの才能があって、妹のために複製品を作った、ということなのだろう。
けれど―――あの時のネフリーの尋常でない様子を考えると、どうもそれだけではない気がした。


「あれ?こんなとこで何してんだ?」
考えに夢中になっていたは、声をかけられるまで、目の前に立っているピオニーの存在に気がつかなかった。
は今、ネビリムに頼まれて、夕飯の買出しに出かけている最中であった。
そのことをピオニーに告げると、ピオニーも一緒に行くと言い出した。
別段断る理由もなかったので、はピオニーと一緒に買い物に行くことにした。

「そういえば、ピオニーのお家ってどの辺りにあるの?」
これまで、はピオニーの家に行ったことはなかった。それどころか、ピオニーに関して何も知らない、という事実に気がついた。
「街からちょっと離れたとこ」
曖昧すぎて答えになっていなかったが、ピオニーがあまり答えたくなさそうだったので、はそれ以上追及するのをやめた。

二人は買い物を終え、大きな袋を抱えてネビリムの家へと向かっていた。
ピオニーの家もそっちの方面にあるらしい。
二人はたわいもない話で盛り上がっていた。たとえばジェイドのこと。ネフリーのこと。


話しながら、はあることに気がついていた。

―――つけられている

ピオニーも気付いているらしく、二人は不自然じゃないように会話をしつつも、後ろへと神経を集中させた。
人気が少なくなってきたところで、ピオニーは足を止めた。

「そろそろ出てきたらどうだ?」
ピオニーがそういうと、隠れていた男達が姿を見せた。
1人や2人ではない。ざっと数えただけでも10人はいそうだ。
そして、それらの謎の人物は皆一様に同じ仮面を被っていた。顔が全くわからない。

はわけがわからず混乱していた。
こいつらは一体なんだ?何で後をつけてきた?何で皆仮面をつけているんだ?
疑問が次から次へと湧いてくるが、口に出せるような状況ではないということが感じ取れた。

「あなたには死んでいただく」
仮面男の一人がそう言って腰の剣を引き抜いた。それを合図に他の男達もそれぞれ武器を構えだした。剣の者もいれば、杖のようなものを持っている者もいる。中には弓を構えている者もいた。

はわけがわからず、隣で平然としているピオニーを見下ろした。
その表情には若干の焦りはあるものの、恐れや怯えの色は見られなかった。
「兄貴の差し金か?」
ピオニーは男達を睨みつけた。
「答える必要はない」
「この人は関係ないんで、逃がしてやってほしいんだがね」
ピオニーはの方を指差しながらそう言った。
「それは出来ない。目撃者も始末しろという命令なのでね」

はわけがわからないながらも、何となく状況が掴めてきた。
この怪しげな男達は皆ピオニーの命を狙っているらしい。

それならば―――

「逃げるわよ!!」
は荷物を放り出すとピオニーの手を掴んで全速力で走り出した。
ここは街中だ。今は人通りゼロでも、走っていればすぐに人通りの多い場所に出られるだろう。
けれど、の考えは甘かったようだ。すぐに前からも追っ手が来た。後ろからも―――
完全に挟まれてしまった。
とピオニーは壁に背をつけて、両方を見渡せるようにした。

「逃げても無駄だ」
男の一人が剣を持って近づいてくる。ピオニーは後ずさることもせず、毅然とした態度で男を睨みあげている。
守らなきゃ、と思った。この小さな子供を守れるのは自分しかいない、と思った。
が前に出ようとした瞬間、ピオニーは男の剣を握る手を蹴り上げた。予期せぬことだったのだろう、男は衝撃につい剣を手放してしまった。
ピオニーは落っこちた剣を素早く拾い上げると、すぐに構える。
、俺があいつらを引き付けるから、お前は逃げろ」
「そ、そんなこと出来るわけないでしょ!!」
ピオニーを残して逃げる。そんなこと絶対に出来ない。

「あいつらは本気だ。人を殺すことに慣れてる連中なんだ!・・・早く!!」
男の一人が、弓をピオニーに向けて放った。ピオニーは剣でそれを難なく払い落とした。
剣の扱いには慣れているようだ。
けれど相手の人数を考えるといつまで持つかわからない。

―――私にも出来ることがあるはずだ!
ネフリーの事件以来、少しずつだが譜術を使う練習をしてきた。
まさか実戦することになるとは思いもよらなかったが。

今まで使ったことのない呪文が頭の中をかすめる。
自信はあまりなかった。

―――けれど

―――やるしかない!!

は意識を集中させる。
空気中の第六音素を体内のフォンスロットに掻き集める。
この術にはかなりの第六音素が必要だ。
眼をつむり、逸り立つ心を落ち着ける。

「ニーベルングの名のもと 聖なる光よ 刃となりて罪深きものに裁きを―――レイ!」






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